かなぺりー碇泊記

かなぺりーによる海外生活と旅行のネタ帳

#263 不幸中の幸い三昧

晴れ 25℃

 

※昨日の話です※

 

今朝のことは多分一生忘れない。
いつも通り5時半すぎにチームメイトたちをそれぞれのポイントに迎えに行き、最後の1人のイタリア人、アンドレアを迎えに行った。アンドレアが運転代わるよと言ってくれたので、いつも運転してくれてるし助かるな〜と思って何も考えずに替わってもらった。車は満員、前から2人、3人、2人の配置で、私は一番後ろの席に縮こまって座っていた。彼が運転を始めて約15分後。長い上り坂を登りきったところで一瞬車内がざわつき、ハと顔を上げたその刹那、強烈な朝の黄白い日差しの色と、普段見えるはずのないぼうぼうと生い茂った木々だけが視界に入った。現状を把握する間もなく私はただ「ヒャァ!」と声を上げて咄嗟に手で頭を覆ったすぐあと、車は猛スピードで草むらに突っ込んだ。上り坂の先は、T字路だった。減速したのち右に曲がるつもりが、朝陽の光で視界が奪われたため手前の標識に気付かず、そこがもう突き当たりであることも見えず、減速する間もなく気付いたら手遅れといった感じだった。車が止まったあとすぐに「みんな大丈夫!?」と声をかけ、全員の無事を確認し、とりあえず状況を確認するために全員降りるよう促した。アンドレアは混乱して、必死に車を道路に戻そうとしていたのでとりあえずオメーも一回降りろと引っ張って降ろした。T字路の突き当たりには道路案内の看板が2つ立っていて、その先は針金数本が横に並んだ弱々しいフェンス。フェンスはぶっちぎってしまったものの、車は看板と看板の間を間一髪すり抜けていた。車のあと数十センチ左前には大木があり、色んなところが少しでもズレてたら全員危なかったんだと思ってゾッとした。アンドレアは興奮と絶望と落胆と反省が入り混じった状態のなか、それでもどうしても車をここから出したいと言って聞かず無理矢理バックして力ずくで車道に戻した。その間私はジェイ(韓国人のピヨ彦)に、すぐボスに電話するよう頼んだが、ジェイの顔が青白く指も小刻みに震えてるのが見えたので携帯だけ借りて自分で電話した。携帯を返し、現在地(道路案内)と車の状態を写真に撮ってボスに送っておいてとだけお願いして、まだ少しオロオロしているアンドレアのそばに行き、一旦落ち着こう、大丈夫だから、全員ケガなくて良かったよと抱きしめながらなだめる。ほかの4人は呆れた様子でとりあえずタバコを吸っており、この状況でよくそんな素早くタバコが巻けるもんだとちょっと感心した。そのうちの1人、フランス人の女の子マオは、かなりツイてない。先週土曜に仕事を始めたばかりなのだが、初日早々、ファームのそばのオフロードで社用車のバンが轍にタイヤを取られて左に横転し、彼女は左肘の内側を切ってしまい病院に運ばれて12針縫ったばかりだった。しかも今朝も助手席に乗っており、車のダメージが一番大きかったのも左前方だった。1週間に2回も事故ってかわいそすぎる。相当怖かったのか、マオは「もうアンドレアに運転してほしくない、かな運転できるならして!」とやおら憤慨しながら私に訴えた。ライトのカバーが割れてたりパーツがところどころ外れてたり、左の方向指示器の点滅速度が異様に高速になったりはしてたけど、走りは特に問題なさそうだったので、ゆっくり慎重にファームに向かうことにした。アンドレアは一番後ろの席に追いやられ、しょんぼりしてるのがバックミラー越しに見えた。
だがしかしハプニングはこれだけではない。私が運転を代わって約15分後、助手席のジョシュ(わ、今気付いた。ジョシュせきのジョシュ笑)が小さく「あ、カンガルーだ」と呟いた。え、どこどこ?と目を凝らすと100mほど先の左車線脇に結構大きいのが一匹跳ねており、来るなよ来るなよ頼むから来るなよと思ってたのに案の定車道に飛び込んできて、そこへタイミングよく走ってきたノーブレーキの対向車(トラック)に撥ねられて回転しながら左車線側に飛んできた。最近視力が悪くなってきた私でさえ、転がるカンガルーの驚いた表情や手足や毛並がはっきりくっきり見えるほどの至近距離。本日2回目の絶叫に包まれながらハンドルを右に左に切って、なんとか対向車ともぶつからずにカンガルーを避けられた。もう心臓はバクバクだった。ジョシュのおかげで予め減速できたから良かったけど、ジョシュが教えてくれなかったら私が轢いてたかもしれない。ありがとジョシュ…流石助手…
いつもより30分ほど遅刻してなんとかファームに辿り着き、アンドレアは申し訳なさげにボスに事の顛末を話していたけどボスは「あ、そう…で、車はまだ問題なく走るの?」と車の無事だけ確認したところで「よし。じゃあ…まあやるか」と普通に仕事に取り掛かった。あんだけ怖い思いしたのに、いつも通り仕事してるのが物凄く不思議だった。気持ちの整理がついてないのは一緒に乗ってた7人だけで、あとのみんなはいつもの木曜日なだけなんだよな…まあそうだよな…でもあれは怖かった…と一日中変な感覚のなかにいた。
午後辺りから少しずつ首周りが痛くなってきた。やっぱ突っ込んだとき衝撃はかなり強かったみたい。幸い、先日日本から送ってもらった湿布をリュックに入れてたので、アンドレアとマーティンに手伝わせて貼ってもらった。送ってもらって大正解、地獄に仏とはまさにこのことか。おばあちゃんお父さんお母さんわしこちゃんありがとう。イタリア人もベルギー人もフランス人も湿布を見て「ナニコレ?なんの匂いこれ」って言ってたのでやっぱ欧米諸国には湿布というものがあまり流通してないんだなと再確認した。
帰りも同じメンバーで帰ろうとしたが、マオだけはアンドレアの運転はやだ、ボスの車に乗ると言って乗車を拒否していた。これで今度ボスの車になんかトラブルがあったらマオまじで救いようがないな…もう何もありませんように…などと思いつつ、帰りはかなり慎重に運転したので無事なにごともなく帰ってこれた。人里離れた僻地ならまだしも、ベコベコの車で町中を走るのはちょっと恥ずかしかった。
帰宅後この話を大家さんとジョス(カナダ人のシェアメイト)に話し、スーパーに行ったらたまたま久しぶりにジョアオに遭遇したのでまた話し、ルカにも電話で話し、話しながらだんだん気持ちに整理がついてきた。でももう少し反芻する時間がいる。ドッと疲れた一日だった。